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 第3回:宝物 byもも


昨年の暮れに呉服屋さんの前にいる一組の母娘がふと目に止まりました。
成人式の晴れ着を探しているであろうその母娘と
十数年前の私と母が重なって映りました。

私が二十歳の頃といえばバブル期で女子大生が毛皮を着て
通学するような今思えば異様としか思えない時代でした。

せっかく振袖を買っても数回しか着れないのなら
毛皮の方がいいという私の申し出で毛皮も着物も両方扱っている
呉服屋さんに母と二人買い物に行きました。

当時、毛皮は最低数十万円はしましたが、着物に比べると安いものでした。
母の懐具合を気にしつつ店頭に並ぶ振袖を見ていると
「着物もいいなぁ」とすっかり心変わりをしてしまったのです。

お店の前の方に並んでいる振袖はセット物で比較的安価な物もあり、
私は極力その中から選ぶつもりでしたが、店の一番奥に
飾られている振袖に私たち母娘は目を奪われました。

それまで見ていた振袖はピンクや赤の地に花柄というような
有触れたものでしたが私たちが目を奪われたそれは深い緑の地に
一箇所だけ大きな蝶の絵柄が入っているとても渋みのある振袖でした。

「これは?」と母が店員の方に尋ねると、某女優さんがある映画で
着用したものと同じものだということでした。
当然、お値段もびっくりするものでした。

手を通してみるだけでもと勧められ、それでは手を通してみるだけ・・・と
その振袖を羽織りました。

しかし羽織ってみるともうダメです。

私も母も、なんとかその代わりの物を探そうとするのですが、
どうしてもその振袖以上に思えるものを見つけることができず、
ついには購入してしまったのです。

もちろんセット物ではないのでそれに見劣りしない帯や襦袢など
母が支払った金額は相当のものだったに違いありません。

今、「モノより思い出」というテレビCMがありますが、
私は必ずしもそうではないと思います。

父の収入からではなく母が自ら稼いだお金でその振袖を買ってくれました。

家事と仕事と育児の両立というかなりの頑張りで得た
お金だということに気付き心から感謝できるようになったのは
結婚してからですが、成人式の季節になると母と
呉服屋に行ったあの日のことが鮮明に蘇ります。

焼物が好きな母が私の婚礼道具として各地を旅行しては
買い揃えてくれた数多くの和食器が箱に入ったまま食器棚に眠っています。
時々、それらの箱を開けてみては母のぬくもりを感じています。

「お母さん、こんなにたくさん使い切れないよ・・・」苦笑いしては
胸がいっぱいになります。

母が私に与えてくれたたくさんのモノは母との思い出と共に
私の生涯の宝物になっています。





第1回:素晴らしい朝
第2回:なんだかな〜
第3回:宝物
第4回:知らぬが仏?
第5回:考えすぎかしら
第6回:働かない女
第7回:おばあちゃん
第8回:徒然なる心

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