| 第4回:米俵から緑の汁があふれてるっ ううぷす ごっつあん、の三 | by ヘクトパスカル |
| いかがお過ごしですか?いい加減お腹いっぱいですか? ちなみに別腹って盲腸の事ですか? ふむふむ、ああ、なるほど、喉の小骨がスッ、スッ、な感じです。ええ、どうもどうも。 えと、何でしたっけ。そう、眠りの窪みの上から物音、そして一条の光明、でしたな。 そこに延びた人影の先には独りの警備員。彼から後光ではなく、単一電池のサーチ ライト。曰く「ここは、夜中でも通るのは構わないんよ。ただ、野宿はねぇ。 何せ、私有地やからね。 野宿出来るところ?そうやねぇ、夜露くらいならしのげるけど、うーん・・・。」 そうですよね、お仕事ですもんね、スンマセン、えへへ、そこいってみます、えへへへ。 きっと善人であろうと思われるたたずまい、その空気にほだされつつ、お追従笑いで 撤収、えへへ。 教えられた場所についてみると、駐車場の一角に、公園にあるような屋根と椅子と テーブルのある、皆さんお馴染みのあづまやがあったと思いねぇ。 そのテーブルの上に大サイズのコンビニ袋、中にビールごろごろ、スナック菓子。 足元には同サイズ袋のゴミあり。え、先客?地元のアンちゃん? かごめかごめで俺ズタ袋?楳図かずお的表現手法、黒い背景で「ギャッ」。 そうだ、きっとこれは忘れ物だ。もうお開きになった後だ。もしそうでなかったら、 出来るだけ刺激しない様に退散しよう。闇夜の神社はおとろしく、川辺は河童に 相撲を申し込まれそうで、行く宛はないけれど、新聞の隅っこでマス目を稼がれる のは御免だ。そうだ、そうしよう。 後ろ向きに腹を括って、いざ横になったその時、複数の話し声、時間いっぱい 待った無し、ああ、漂流しなくちゃなのかと失念し、撤収の準備。ミラー、合図、目視。 自動車教習の要領で顔を上げてそちらを見やる。じりじりとにじり寄る壁。迫り来る 正体不明の恐怖にフォーカスを合わせると、手に手にコンビニ袋大とカップラーメンを 提げた力士、力士、そして力士。 ふたり、ひとり、ふたりと計5人。 「お邪魔します。」「お邪魔してました。」と、彼らは 雲龍型であづまや入り。(勿論そんなサービスは無い) どうもスミマセンと消え入りそうな声で応答しつつ、ワタクシは椅子の隅っこで出来 得る限り小さく小さく、小動物の様に息を殺して、現実から目を背ける様に目蓋を 大きく閉じた次第で御座います。 ワタクシの日常に聞き馴染みの無い言語を操り(辛うじて「おやっさん」というのは 聞きとれた。容貌は日本人力士とさして変わり無く、恐らく蒙古系かと思われ)、力水 よろしく先程のビールをあおり、麺をすする音、ゲップ、放屁飛び交う中、粛々と 夜食会が催されごっつあん。 力士にとって、食事も仕事であり、とても勤勉でストイックな稽古風景であります。 おお、升席。個人的のっぴきならない状況の中、彼等の内の一人の携帯電話が 小刻みに震え、「マイ・ハニー、愛してるよ。」とフェードアウト。なんとも素晴らしい。 土俵の中には宝が、そして金星※がずっぽりと埋まっていて、それを血と汗と泥と 涙に塗れた手で掘り当てる漢(おとこ)の世界を目の当たりに。 所在無げにまんじりとしない時間を過ごし、やがて先程の力士がフェードイン。 机の上に散乱するゴミ、場もお開きに差し掛かろうとしたその時、ワタクシは胃袋 からせり上がるようなくぐもった声で、 「あ、あの、しゃ、写真を一枚と、と、撮らせていただいてよろしいですか・・・」 こんな機会は無い。相撲は元々、やおよろずの神々に奉げられる神聖なものである。 その聖職者達の深夜の宴の一秒をあやかるくらい、バチは当たるまいと千切れそうな 心臓をはたき込み。 すると彼等は「ちょっと待ってて。」と、机の上を片付けはじめる。何だ、そんなに 恥かしがらなくてもいいのに。 撮影が終わると、「今夜はここで野宿するの?」「ゴハンたべたの?」 「どうやって来たの?」「お金は大丈夫?」「帰れるの?」と口々に気に掛けてくれ、 ワタクシははい、ラーメンを、原付で、何とか、気合でもって、と精一杯の申し訳程度の 返答を返すと、「これ食べて。」と、おでん、エクレア、ビーフジャーキー、惣菜パン、 スナック菓子、ビール缶8本、緑茶2リットル等などを施され、ワタクシ手刀で心の字を 描きつつ、激励の声を掛けると、彼等は颯爽と闇に溶け込んで行きました。 鬢(びん)付け油の香りを残し、吹きっさらしの阿片窟、意識がとろとろ。ああ、果報者。 残されたワタクシは、甲斐甲斐しくまめまめしくオカミさん気分で後片付け。 権限もコネも活きナマコを素手で掴む度胸もないワタクシが、もし、傲慢にも新しい単位 としてコンビニエンスビニール袋大のゴミを1うっちゃりとして制定させていただくとする ならば、本日のお食事結びの一番(であろう)、食べに食べたり6うっちゃり。何とも 優しいブラックホール。 食料品メーカーの汗が、胃袋の彼方へと・・・・・・・・・・・・ふゲッぷぅ。 「印度の虎狩」を弾いていたワタクシのゴーシュも、いつの間にやらセロの演奏を止め、 交代で弥次さん喜多さんが弓取り式を始めた、ワタクシのお伊勢参りで御座いました。 (馬の@@Ю@@のことはもう忘れて下さい) ※金星(きんぼし)・・・・力士の隠語。ホシとは彼女を指し、金星はその中でも美人を指す。 |
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